2025年7月に読んだ本

今月もまた、思考を揺さぶられ、心を耕されるような読書体験が続きました。
今回はその中でも、特に印象深かった7冊をご紹介します。
気になる本があれば、ぜひ手に取ってみてください。
ちなみに、X(旧Twitter)では毎週木曜日に小説を中心とした別の本紹介もアップしています。そちらもぜひチェックを!
問いが世界をつくりだす:メルロ゠ポンティ 曖昧な世界の存在論
著者:田村正資

「世界は、問いを待っている」
この本を閉じたとき、そんな感覚が胸の内に静かに芽吹いていました。
メルロ゠ポンティの哲学を基盤に、世界があらかじめ在るものではなく、私たちの問いかけによって現れてくるという視点を解き明かしていく一冊。
特に、「動機付け(motivation)」というキーワードには深く頷かされました。
因果でも合理でもない、世界に動かされる感覚。
それは言葉になる前の微細な気配を感じ取るような繊細な営みであり、まさに「世界とともに生きる」とはこのことかと震えました。
知覚・意味・存在という抽象的なテーマが、読むうちに私自身の思考の地図を書き換えていくような読書体験。
静かで、力強い一冊でした。
著者:今井むつみ

この本は、私のコミュニケーション観を根底から揺さぶってきました。
「わかりあえないことを、前提にする」そんな覚悟に近い納得感を得られる一冊。
人は皆、異なるスキーマ(知識の枠組み)を持っている。
だからこそ、伝わらないのは当たり前であり、そこから対話は始まる。
そんな視点が、現代に必要な対話の土台をそっと教えてくれます。
「抽象と具体を行き来する脳の癖」や、「記憶の限界」など、日常会話の中で無自覚にやってしまうすれ違いの正体が、鮮やかに言語化されていきます。
読んでいる最中、「ああ、自分はこの誤解の中にずっといたのかもしれない」と何度も膝を打ちました。
著者:今井むつみ

SFCでの講義を書籍化したというだけあって、どの章も非常に読みやすく、それでいて深い。
「記憶」「思考」「スキーマ」「バイアス」
これまでなんとなく分かったつもりでいたキーワードたちが、ひとつのストーリーとして繋がっていく快感がありました。
特に響いたのは「人は感情で判断し、理由はあとから考える」という一文。
まさに日常あるあるで、そこに気づけるだけでも、自分を少しずつ整えていける気がしました。
今井先生の本はどれも好きですが、本書はその中でも「はじめて読む1冊」として最適。
心理学への入り口として、多くの人にすすめたいです。
著者:古賀史健

これは読むことの喜びを、物語として伝えてくれる宝物のような本。
前作『さみしい夜にはペンを持て』の続編でありながら、よりファンタジー色が強く、中学生にも読める優しい語り口。
「読みにいかないと、読めない」という言葉がずっと胸に残っています。
本との出会いは偶然ではなく、いつも自分から手を伸ばしたかなんだ、と。
本屋で2時間、3冊を見つけに行く冒険のシーンは、読書好きなら誰でも共感できるワクワクが詰まっていて、本を読むことの原体験を思い出させてくれました。
著者:齋藤孝

「読書家」という職業があったら、そんな願いに優しく寄り添うような本でした。
読書の深さ、浅さ、疑似体験、対話、批判的読解。
さまざまな読み方を丁寧に紹介しながら、「だから読むんだ」と自分の読書に意味を取り戻してくれる一冊。
自分が何に違和感を持っているのか、それを言語化するきっかけにもなりました。
読むことで世界が広がるではなく、読むことで、自分自身の見え方が変わっていくことを再認識させてくれました。
著者:伊坂幸太郎

これはまるで、現代社会への寓話のような一冊。
西遊記をモチーフにしたキャラクターたちがAIの未来に挑む、不思議で、どこか切実な物語。
短い物語ながら、読了後にはずっしりと余韻が残ります。
AIばかりがもてはやされる今、人間の感情、自然のネットワーク、そして「物語」の力を改めて考えさせられました。
ヒトが世界のすべてだと思い上がるというメッセージにハッとしました。
著者:浅倉秋成

「これは、浅倉秋成の中でも異常に面白い方の短編集」
そう思わせてくれる破壊力でした。
「そうだ、デスゲームを作ろう」「行列のできるクロワッサン」など、SNS文化や現代社会の違和感を拡張して風刺に変えてしまうそのセンスと構成力に脱帽。
良識がいちょう切りされるような、奇妙でリアルな世界観にゾクゾクしっぱなしでした。
どの短編も不条理でありながら、なぜか既視感があり、笑いながらも考えさせられる。
まさに「いま読むべきヘンな本」。
まとめ
今月は、知覚・言語・読書・風刺と、実に多様な本たちに出会うことができました。
どの本も共通して私に問いかけてくるのです。
「あなたは、どう世界と向き合いますか?」と。
答えはまだ出ていません。
でも、ページをめくるたびに、少しずつ見えてくるものがある。
それが、読書の魔法なのだと思います。
それでは、今日も1日、最高に楽しく生きましょう!