怒りの手前で、深呼吸

「今日ね、学校で友達にもう遊ばないって言われた…」
悲しそうな顔で帰ってきた次女の一言に、思わず「なんて子だ!」と反応しかけた私は、言葉を飲み込みました。
すぐに言い返したり、相手を非難するよりも、今この子に必要なのは、感情の受け止め手なのだ。
そう感じて、私は静かに娘の話を聴くことにしました。
「反応しない」とは、無視することではありません。
むしろ、相手の内側を丁寧に読み取るために必要な余白をつくる行為です。
感情的な反射を抑え、一呼吸置くことで、私たちは知性的であたたかな関わりを選べるようになります。
今回の記事では、私たちが日常でなぜ反応してしまうのか、その心理や脳の働きを解説しながら、実際の子育て・教育・職場でのエピソードとともに「反応しない」ための実践法をご紹介します。
目次
扁桃体ハイジャックから前頭前野へ
心理学者ダニエル・ゴールマンが著した『EQ こころの知能指数』には、「扁桃体ハイジャック」という興味深い概念が登場します。
これは、怒りや不安などの強い感情が起こったときに、脳の理性的な働きを一時的に遮断してしまう現象です。
脳の中で、感情を司る扁桃体が暴走し、思考を司る前頭前野の機能が低下する。
つまり、「カッとなる」状態とは、思考停止に陥っている状態なのです。
このとき必要なのは、反応せずに立ち止まること。
その数秒が、自分自身の理性を再び起動させ、状況を客観視できる力を取り戻してくれます。
まさに「反応しないこと」は、私たちの脳を守る行動でもあるのです。
正しさよりも理解を選ぶ
子育てや仕事の中で、誰かが自分と違う意見を述べたとき。
私たちはつい「それは違う」「何言ってるの」と言いたくなるものです。
けれど、そこですぐ反応してしまえば、相手の心は閉じ、対話の扉も閉ざされてしまいます。
この点を深く掘り下げてくれるのが、岸見一郎・古賀史健による『嫌われる勇気』です。
同書では、「課題の分離」という概念を通して、他人の意見や感情を自分の支配下に置こうとしない態度を強調しています。
たとえ間違っていると感じる意見でも、すぐに否定せず、まずは最後まで話を聴く。
その先に、「自分で考える力」や「成長のきっかけ」を相手が見出す可能性があるからです。
正しさを押しつけるより、理解のために静かに耳を傾ける。
これこそが、信頼を育む関わりなのだと思います。
「反応しない力」を育てる3つの方法
ここでは、私自身が実生活で実践している「反応しない力」のトレーニング方法を3つご紹介します。
6秒ルールと深呼吸
怒りの感情は6秒がピークだといわれています。
私も子どもが癇癪を起こしたときには、まずゆっくり息を吸って、静かに吐きながら心の中で「今は反応するタイミングじゃない」と自分に言い聞かせながら、深呼吸を繰り返しています。
その6秒で、理性が戻ってくるのを待つのです。
言い換えれば、一拍置く習慣が、未来の関係性を守る第一歩です。
感情のラベリング
草薙龍瞬さんの『反応しない練習』では、感情に名前をつけることで距離が生まれ、冷静さが戻ることが紹介されています。
「私は怒っているな」「これは不安から来ている感情だ」と言語化することで、自分がその感情に飲まれていない状態に戻ることができる。
この技法を知ってから、私はカッとなる前に心の中で「今、怒ってるね」とつぶやくようにしています。
それだけで、行動を選び直す余裕が生まれるようになりました。
「受け止める」が先、助言は後
子どもが悩みを話してきたとき、つい「こうすればいいのに」「なんで言い返さなかったの」と言ってしまいがちです。
けれど、そうやって反応してしまうと、子どもは「この人には気持ちを話せない」と感じてしまう。
そこで私は、「それは悲しかったね」「悔しかったね」と、まず感情の受け止めに徹するようになりました。
すると子どもは、少し安心した表情で、自分から「でもね、明日はまた遊ぶって言ってくれたの」と話してくれるようになります。
反応しないことで、子どもは自分で立ち直る力を取り戻す。
これは子育てにおいて、最も大切な学びのひとつでした。
まとめ:反応しないことは、選ぶこと
スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』には、こんな一節があります。
「刺激と反応の間には選択の自由がある」
この言葉が教えてくれるのは、「反応」は義務ではないということ。
誰かに何か言われたとき、子どもがイライラしてぶつかってきたとき、SNSで誰かが暴言を吐いたとき。
それにどう応じるかを選ぶ自由が、私たちにはある。
怒ってもいい。悲しんでもいい。
けれど、その感情に自分を支配させないこと。
一呼吸置くことで、自分の言葉を選び直せる。相手を否定せずに成長を支援できる。
反応しないという行動は、知性であり、そして深い思いやりでもあるのです。
それでは、今日も1日、最高に楽しく生きましょう!