アドラー流子育て術

「なんで言う通りにしてくれないの?」「また怒鳴ってしまった…」
子育て中、こうした感情に悩む方は多いのではないでしょうか。
実は私自身も、かつてはその悪循環の中にいました。
感情をぶつけたあとに後悔し、また自分を責め、そんな日々。
でも、ある一冊の本と出会ったことで、私の中で何かが静かに変わり始めたのです。
その本が、岸見一郎・古賀史健 著のベストセラー『嫌われる勇気 』(ダイヤモンド社)でした。
その中で、私が最も強く心を打たれた言葉があります。
「子どもは親の所有物ではない。独立した一人の人間である」──『嫌われる勇気』より
これまでの私は、無意識のうちに「子どもは自分の言うことを聞くべき存在」と捉えていたのかもしれません。
しかしこの一文に出会った瞬間、自分の中の前提が音を立てて崩れていったのです。
親子という関係も、支配と従属ではなく、信頼と協力の上に成り立つべきなのだ。
そんな当たり前のようで見落としがちな真理に、深く気づかされました。
今回の記事では、アドラー心理学が提唱する3つの基本理念「目的論」「課題の分離」「勇気づけ」を中心に、科学的根拠や実践例を交えてわかりやすく解説しながら、今日からできる具体的なアクションプランを紹介します。
目次
アドラー心理学とは何か?
アルフレッド・アドラーは20世紀初頭に活躍した心理学者で、フロイトやユングと並び「現代心理学の三大巨頭」と称されます。
彼が提唱した「個人心理学」は、今日では「アドラー心理学」として知られ、世界中の教育や子育てに影響を与えています。
アドラーの特徴は、「過去」よりも「未来」、原因よりも「目的」に目を向ける点。
そして、「他者との関係性」こそが人間の悩みの根源であるというシンプルで深い見解にあります。
アドラー心理学に基づく子育ての核は、「対等な人間関係」と「子どもの尊厳」を守る姿勢にあります。
これは、近年注目されているポジティブ・ディシプリン(肯定的なしつけ)の源流とも重なり、親の態度や関わり方が、子どもの自己肯定感・学習意欲・社会性に大きく影響することが科学的にも確認されています。
子どもの行動には目的がある
アドラー心理学の核心的な考え方が「目的論」です。
つまり、子どもの行動は過去の原因ではなく、未来の目的によって引き起こされているということ。
例えば、
- 片づけをしない → 「親の注目を引きたい」
- 宿題を忘れる → 「できない自分を演出し、責任から逃れたい」
こうした行動の裏には、「注目されたい」「認められたい」「コントロールしたい」などの目的が潜んでいます。
心理学者ルドルフ・ドレイカースは、子どもの望ましくない行動には以下の「4つの誤った目的」があると述べています。
- 注目を引きたい
- 権力を誇示したい
- 傷ついた心を復讐で表したい
- 無力さを演出して関心を得たい
これを知っているだけで、子どもの困った行動に対して「なんでそんなことするの!」と怒る代わりに、「この子は今、何を求めているんだろう?」と冷静に見つめ直すことができるようになります。
実際、保育現場や教育現場でも、この「目的に注目する姿勢」を取り入れることで、感情的な対応が減り、子どもの問題行動が落ち着くケースが多数報告されています。
それは誰の課題?
次に紹介するのが「課題の分離」。
これは、アドラー心理学の対人関係論において極めて重要な概念です。
要するに、「これは誰の課題か?」をはっきりさせること。
- 宿題をやるのは誰の課題? → 子ども自身
- 友達とケンカしたとき、謝るのは誰の課題? → 本人
親が「宿題やったの?」としつこく干渉したり、代わりに解決してしまうと、子どもは自分の領域に土足で踏み込まれたと感じ、反発や無力感が生まれます。
逆に、「それはあなたの課題だから、自分で考えてね。でも困ったらいつでも相談してね」と伝えると、子どもは「自分のことを信頼されている」と感じ、自主性が育ち始めます。
この姿勢は、心理学でも「オートノミーサポート(自主性支援)」として広く研究されており、親が子どもの選択や判断を尊重することで、子どもの幸福度・自己調整能力・学業成績まで高まるという研究結果が複数報告されています。
褒めるより、勇気づける
最後は「勇気づけ」。
アドラーは、「人は勇気をくじかれたときに問題行動を起こす」と述べています。
ここでいう「勇気づけ」は、単なる「褒め言葉」とは異なります。
「頑張ったね」「挑戦したね」「助かったよ」など、子ども自身の努力や存在そのものを肯定的に伝えることです。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の有名な研究では、
- 能力を褒められた子ども → 失敗を避け、簡単な課題ばかり選ぶ
- 努力を認められた子ども → 困難に挑戦し、失敗しても立ち直りやすい
という違いが明らかになりました。
結果重視ではなく、過程を認めることが、子どもに「また挑戦しよう」と思わせる力になります。
特に思春期の子どもには「あなたの頑張り、見てたよ」「やろうとしてたの、わかってるよ」という一言が、思っている以上に深く響きます。
アドラー流子育ての実践がもたらす変化
これらのアプローチを取り入れることで、親子関係には具体的な変化が現れます。
- 怒鳴らなくても、子どもが話を聞くようになる
- 子ども自身が課題に向き合う力が育つ
- 親のストレスが減り、育児が楽になる
- 家庭の空気が穏やかに変わる
アメリカの親向けプログラム「ポジティブ・ディシプリン」でも、7週間の講座で親のストレスが有意に減少し、子どもの問題行動も大幅に改善したという研究が報告されています。
また日本でも、「課題の分離」「勇気づけ」の実践により「反抗期が穏やかに過ぎた」「子どもが自分から動くようになった」という成功例が多数報告されています。
今日からできるアクションプラン
以下のようなシンプルな実践から、アドラー流の子育てを始めてみましょう。
怒りが湧いたとき
「なぜできないの?」ではなく「次はどうする?」と問いかける。
結果ではなく努力を承認
「満点すごいね!」ではなく「よく勉強してたね」と声をかける。
感謝の言葉を習慣に
「助かったよ」「ありがとう」を毎日の中に取り入れる。
子どもの課題を見守る
「やるかどうかは任せるね、困ったら相談して」と伝える。
親自身も自分を勇気づける
「また怒っちゃった…」ではなく「次は落ち着いて話そう」と前向きに捉える。
まとめ:信頼と対話で育む親子の未来
アドラー心理学が教えてくれるのは、「子どもをコントロールするのではなく、信じて支えること」
そして、「親自身も未完成な存在として、共に成長していくこと」です。
私たち親は、完璧である必要はありません。
大切なのは、間違ったときに「ごめんね」「次はこうするね」と言える勇気と、子どもと正面から向き合う誠実さです。
子どもは親の所有物ではなく、一人の人格を持った仲間です。
その仲間とともに、信頼と対話を積み重ねていくことこそ、最も確かな子育てなのだと思います。
それでは、今日も1日、最高に楽しく生きましょう!