さみしい夜にはペンを持て

先日、『さみしい夜にはペンを持て』(古賀史健 著)を読みました。
書くことが持つ力、感情と向き合う意味、そして言葉によって心が整っていくプロセスが、深く胸に刺さりました。
この本は、誰かに見せるためではなく「自分のために書く」ことをテーマに据えた一冊で、特に「紙に書くこと」の効用を優しく、けれど力強く伝えてくれます。
読後すぐ、私はデジタルで続けていた日記を一度リセットし、日記帳を再び開くことに決めました。
「書くこと」は単に記録するだけでなく、自分と対話し、心の中のもやもやを見える化する行為。
気持ちが整理され、心に余白が生まれる感覚がありました。
今回の記事では本書が教えてくれるポイントを簡潔に振り返りながら、「紙に書くこと」が心と体にどのような好影響をもたらすのか、心理学・生理学・社会学の最新研究に基づき、詳しく掘り下げていきたいと思います。
心を整える—ジャーナリングの心理的メリット
「書くこと」は、心の中のモヤモヤを外に出し、感情を整理する行為です。
不安の高い大学生が大事な試験前に心配事を書き出したところ、脳の情報処理資源を無駄に消費せず、課題パフォーマンスが向上したという結果が出ています。
これは、頭の中でぐるぐる回っていた思考が、書くことによって「見える化」され、脳内スペースが解放されるからです。
別の実験ではトラウマ的体験を事前に書いておくだけで、ストレスホルモン(コルチゾール)の急上昇が抑えられることも確認されました。
また、抑うつ気分の軽減にも効果が見られています。
3日間にわたって自分の深い感情について書いた被験者は、うつ症状が有意に改善しました。
つまり「書くこと」は、ネガティブな感情を安全に吐き出し、心の自己治癒力を引き出すための内なる対話なのです。
脳と身体にも効く—生理学的なメリット
書くという行為は、単なる心理的作用にとどまりません。
生理学的にも、脳やホルモン、免疫に良い影響を与えることが確認されています。
例えば、書くことで脳の過剰な活動がクールダウンされることがEEG(脳波計)測定でも示されています。
これは、不安や悩みが脳を疲弊させるのを防ぎ、注意力や集中力の維持につながると考えられています。
また、ホルモンレベルでも変化が見られます。
失敗体験をあらかじめ書くと、試験本番でのストレス反応が緩和されるだけでなく、唾液中のコルチゾールの上昇が顕著に抑えられました。
さらに、別の研究では、医学部生にトラウマ体験を書いてもらった後にワクチンを接種したところ、抗体価が有意に上昇。
これは「書くこと」が免疫応答を高め、身体の健康状態を間接的に支えていることを示唆しています。
つながりを深める—社会的・対人関係の効果
書くことは、孤独な作業のようでいて、実は人とのつながりを豊かにしてくれる行為でもあります。
恋愛中のカップルの一方が感情について書くことで、3か月後の交際継続率が高まったと報告されています。
書くことで自分の感情が整理され、結果的にパートナーへの伝え方が前向きに変わったというわけです。
また、共感力の向上も報告されています。
省察的ライティングを日常的に行っている医療従事者は、患者に対する共感的理解が高まったというデータもあり、これは対人援助職に限らず、日常の人間関係にも応用できるでしょう。
書くことで、私たちは「自分の気持ち」と「他者の気持ち」のあいだに橋を架ける訓練をしているのです。
書くことの落とし穴—反芻やストレスのリスク
とはいえ、書くことがすべての人にとって万能薬になるわけではありません。
反芻傾向の強い人や、過去のトラウマに敏感な人にとっては、書くことでかえってネガティブ感情が増幅する場合があります。
離婚後の人が感情を深く掘り下げて書いた場合、むしろ8か月後にストレスレベルが悪化していたという結果も出ています。
感情を何度も反芻しながら書き続けると、負のスパイラルにはまってしまうこともあるのです。
また、習慣化の難しさや、書いている途中で一時的に気分が不安定になるなどの副作用もあります。
効果を最大限に引き出すには、無理のない範囲で「自分に合った形」で続けていくことが肝心です。
『さみしい夜にはペンを持て』が教えてくれたこと
『さみしい夜にはペンを持て』は、書くことを「自分と話す行為」だと捉えます。
人に読まれることを前提にせず、素直に心の声を紙に置く。
そのことで、気づけなかった感情や本音に出会えるのです。
たとえば「つらい」「疲れた」といった、たった一言の感情でも、紙に書いてみるだけで心が少し軽くなります。
書いた言葉は時に、読み返すことで「乗り越えた証」にもなり、過去を新たな視点から捉え直すヒントにもなるのです。
私が特に印象に残ったのは、「読まれない前提で書くこと」の自由さです。
SNSではとても書けないような、言いにくい感情や矛盾、愚痴も、紙の上ならそのまま置いておける。
紙の上でしか出会えない自分の姿がある。その感覚が、じんわりと心に染み入りました。
今後の私のアクションプラン
- 夜、今日1日を振り返り、自分の気持ちを言葉にする
- 上手に書こうとせず、思いついた言葉を「置く」感覚で書く
- どんな感情も否定せず、ありのまま紙に記録する
- 時々過去のページを読み返して、自分の変化や成長を確認する
書くことは、日々の自己管理、感情の整理、そして内省の時間として、私のクレドにもぴったりとフィットする習慣です。
忙しい毎日の中でも、1日数分、ペンを持って心と対話する時間を大切にしていこうと思います。
まとめ:書くことで心と体と人との関係が整う
⭐️ 書くことは、感情の整理・ストレス緩和・自己理解の促進に効果的
⭐️ 生理的にも脳活動を整え、ストレスホルモンや免疫系にポジティブな影響がある
⭐️ 対人関係や共感力の向上にもつながり、孤立を防ぐツールになり得る
⭐️ ただし反芻傾向が強い人やトラウマ体験が深い場合は慎重に
私たちの内側には、書くことでしか見つからない「声」があります。
だからこそ、頭がもやもやしたとき、気持ちがぐらついたとき、未来が見えなくなったとき、ぜひ一度ペンを持ってみてください。
それでは、今日も1日、最高に楽しく生きましょう!